
美濃焼の魅力とは?
何といっても“土”ですね。この東濃エリアには、世界に誇れる土の原料が豊富にあります。多種多様な陶磁器がつくれるのは、そうした優れた土が集約されているから。人間国宝や作家さんも多く、プロダクトを手がけるメーカーもたくさんある。土鍋やストーンウェア、日用品から高級磁器まで…。ここでは、「土をデザインする」という考えが自然に息づいています。そんな産地は、日本でも世界でも、ほとんど他に類を見ません。
「いい土」とは、どんな土ですか?
まず、成形しやすいこと。可塑性が高くて粘りがあり、狙ったかたちがつくれること。東濃には多様な原料があるので、ブレンド技術を使って用途や作り手に合わせた“土”がつくれます。だからこそ、個性が表現しやすく、つかい手にも寄り添う器になる。そこが美濃焼の強みだと感じています。
&CATの器がシャープに仕上がるのも、その土のおかげですか?
はい。成形性に優れた磁器土があるので、シャープなデザインも再現しやすいんです。他の産地だと土の特徴がデザインに出やすく、器の雰囲気が似てしまうこともありますが、美濃では本当に多様なかたちがつくれる。全国の焼き物が、ここで全部つくれるんじゃないかって思うくらい。類を見ない産地だと感じています。
丸朝製陶所の歴史についても教えてください。
1916年に曾祖父・朝一が創業しました。創業当初は輸出用の洋食器を手がけていて、北米やオーストラリア、中東などに向けて磁器製品を輸出していました。その後、為替変動などをきっかけに国内市場にシフトしましたが、中国製の輸入品が増え、厳しい時代が続きました。私が代表になる前から少しずつ多様性に対応できる体制づくりを進め、小ロット・多品種のものづくりへと方向転換しています。
陶器と磁器の違いは?
ざっくり言えば、陶器は粘土の割合が多く、磁器は鉱物成分が多い。ですが、厳密な定義は曖昧です。磁器でも耐久性のないものもあれば、業務用で使えるほど丈夫なものもある。数値で判断することもありますが、基本的には磁器のほうが吸水性が少なく、割れにくいですね。丸朝は創業以来、ずっと磁器づくりを続けています。
&CATの製品づくりで、難しかった点は?
やはり“シャープさ”です。“世の中にないもの”を目指す多くのデザイナーたちの図面には、シャープな意匠が多く含まれています。でも、角はヒビや欠けのリスクが高く、通常は丸く処理されることが多いんです。&CATはあえて“尖ったデザイン”を選びました。最初は正直、大変だなと思わずため息が出たほどですが、社長さんの熱意に触れ、何とか形にしたいと思いました。
マットな釉薬も、難しいのでは?
はい、マット釉はムラが出やすいし、垂れやすい。&CATの器は高さもあって形状も独特なので、施釉時にかなり神経を使います。専用の治具もつくりました。釉薬のタレを防ぎながら、マットな質感を美しく出すために、いまも改良を重ねています。
新作「TAJIMIシリーズ」への想いも聞かせてください。
「無垢な素材感を感じてほしい」このシリーズに込めたのは、その一点です。釉薬を極力減らして、土そのものの質感や手触りを表現しています。それでもしっかりと焼き締めて磁器化しているので、食洗機・電子レンジ対応の強度はしっかりあります。ただ、デザイン上、&CATさんの器の角は非常に鋭角にデザインされていて、扱いには少し気をつけてください。焼き加減で土の色が変化することもありますが、それも焼き物ならではの個性。それでも、この器には、育てる楽しさがあります。使い込むほどに表情が変わり、まるで昔作った泥だんごのようにツヤが出てくる。そんな“育てる器”として、長く付き合っていただけたら嬉しいです。